🦐 持続可能性の高い無痛分娩システムの構築
最近、まわりで無痛分娩を立ち上げたいとか、実際に立ち上げたとか、そう言った話を耳にする様になりました。
出産において分娩時の痛みを取ることは、欧米諸国では「女性の権利」とされていますが、アジア諸国ではまだまだ普及途中……
そんな中、多くの医療機関において、無痛分娩が普及する様になって、ほんとうに時代は変わったなぁと感じています。
一方、この界隈に長く働いていると、立ち上げてみたものの、現場スタッフは無痛分娩なんてやりたくない、といった持続可能性が皆無な状況もあります。
今日は、無痛分娩を立ち上げるにあたって、どのようにすれば持続可能性の高いシステムが構築できるかを、ぼくなりにまとめていこうと思います。
言い出しっぺは誰なのか?
無痛分娩を立ち上げるのは、一つの大きなプロジェクトです。
その際に、ぼくがいつも尋ねるのは、「誰が無痛分娩を立ち上げたい」といっているか、です。
特に、病院では言い出しっぺのパターンがさまざま。
- 分娩数が伸び悩む産婦人科部長
- 病院経営的に収益を増やしたい院長
- 産科麻酔を勉強してきた若手麻酔科医
- 手術室以外に麻酔科の貢献を求められている麻酔科部長
病院やクリニックによって、キッカケはさまざまですが、最終的なゴールは、どこも病院経営者、産婦人科医、麻酔科医、助産師等、複数のステークホルダーが同じ方向を向いて、協力できる体制をつくること。
経営陣は前のめりだけど、現場は忙しくて、そんな余裕はない。
逆に現場は乗り気だけど、病院としては無痛分娩よりも手術件数を増やしてほしい。
そんな思惑の相違があると、プロジェクトとしてはうまくいきません。
あと、このご時世、全部自前で立ち上げようとすると、時間と労力がめちゃめちゃもったいない。システム構築やスタッフ教育、デバイスの選定など、その道のプロに頼む事例も増えてきました。
特に、麻酔について詳しくない助産師さんに、麻酔について教えることは、結構大変です。麻酔を理解していることが、令和時代の助産師には求められると頭ではわかっていつつも、自分たちのスペシャリティーも磨きたいが故に、なかなかうまく教育できないことはあります。
ただ、どんな施設であっても、誰が言い出したのかを明確にしないと、適切なゴールにはたどり着けません。なんとなくふわっとみんなでやっていけばできる。無痛分娩自体は硬膜外麻酔なので、麻酔科的には高いスキルが求められるものではありませんが、明確な地図を持たずにシステム構築ができる代物ではありません。ですので、最初にすべきは、チームづくり。
麻酔科、産婦人科、助産師、医療事務等、複数の部門から「核」となる人材を選出し、その人たちを中心に、立ち上げることが重要。
外部からのマニュアルをぽんっと持ってきて、それでOKと思っている経営陣は少なくないので、結構難しいこともあります。
プロジェクトの成否を分けるのは、良いスターティングメンバーを揃えることと言っても過言ではありません。
ベストなチーム・ビルディング
野球は9人で行うスポーツだし、サッカーは11人で1チームです。
どんなことをやるにも、チーム・ビルディングが重要です。
最低限、麻酔科医1人、産婦人科医1人、助産師1人。
理想は、各2名で、医療事務や薬剤師、臨床工学士、病院幹部など、無痛分娩に直接関わらないスタッフもいると、システム設計はスムーズにいきます。
コスト請求、薬剤調整、デバイスのメンテナンス、院内のガバナンスなど、最終的に無痛分娩プロジェクトが機能するにあたって、必要なメンバーを最初に集めておくと、円滑な運営ができます。
あと、ゴールは無痛分娩を開始するではなく、無理なく当たり前に無痛分娩が日常診療になることで、プロジェクトの設計は、最終ゴールまでを思い描いてからスタートすることです。
無痛分娩を始めるだけでやってしまうと、途中から入ってきたメンバーへの教育、モチベーションの維持、システムのモニタリングなどまで設計することが難しくなってしまいます。
ぼくはこれまで、個人の努力で無痛分娩を立ち上げ、その個人がいなくなって無痛分娩が廃れてしまうのを、横目で見てきました。
分娩は24時間365日の医療なので、特定の個人に負担がかかると、どんどんサステナブルでなくなってしまいます。
ですので、ハイクオリティを目指すよりも、まずは無理せず普通にできる状態を作ることが肝要です。
余裕を持った計画設計
無理せず無痛分娩プロジェクトを行う場合、半年から1年くらいが妥当なラインです。もちろん、3ヶ月で立ち上がることもありますが、そう言ったケースはかなりレア。最初の2ヶ月で課題抽出、次の2ヶ月で教育&マニュアル整備、最後の2ヶ月でシステム構築。
理想は週1回のミーティングを、曜日時間を固定しておくこと。空いた時間にやろうとしても、忙しい臨床現場において、時間が空くことはありません。まずは、予定をブロックして、優先順位をあげておくことです。
こう言った話をすると、「現場では急に何かが起こることがあるから難しい」といった声があがります。でも、最初に予定を確保しておけば、なんとか時間は確保できるもの。ですので、できればプロジェクトに伴走してくれるプロがいてくれると非常にスムーズです(いわゆる診療コンサルってヤツですね)。
最初に、計画を立てることに時間を使うことは、実は非常に効率的。行政でも診療報酬改定といった巨大プロジェクトでは、必ず最初に予定表を立てます。もちろん、予定は未定ですが、それであっても、予定を立てなければ、地図のない中で航海するようなもの。しっかりと計画を立てることが、成功の秘訣です。
あとは、最初の段階で、自分たちの仕事をモニタリングするシステムを作っておくと、非常に便利です。いまだと産科の部門システムに無痛分娩情報も記載することができますので、そういった情報が自動で引き出せる様にしておくと、年間何件無痛分娩をおこなったかなど、妊婦さんに見せられるデータが揃います。
無痛分娩で硬膜穿刺後頭痛が起こるのは、
- 一般的に100人に1人と言われています。
- 過去2年間で250人に行って、3人でした。
どちらが、妊婦さんからすると信頼できますか。こう言ったデータは定期的に集めるのではなく、自動的に集められるシステムがあると、非常に完成度が高くなります。
マニュアルはプロの目を通す
いま、東京都では無痛分娩助成事業があり、そのため各医療機関の無痛分娩マニュアルが公開されています。
それぞれのマニュアルを見比べると、
- 教科書からの丸パクリ
- ネットのマニュアルから丸パクリ
- ネットのマニュアルを参考に自作
- その他(オリジナル)
だいたいこの4パターンになります。別にオリジナルである必要性は高くありません。ただ、ネットのマニュアルを参考にする際に、「なぜ〇〇なのか?」までは、ハッキリさせておかないと、現場は単なるマニュアル至上主義になってしまいます。分娩は個人差が大きいため、無痛分娩もマニュアルどおりにいかないことが多々あります。そのため、自分たちが作成したマニュアルを少なくとも1回は、プロに見てもらった方が、想定外のことが起こった時に、対応できます。
教科書にあわせなくて良い
いまの理想は、低濃度局所麻酔薬+オピオイド、維持はPIEB、疼痛時はPCEAです。でも、医療機関によって、状況はさまざまです。
- 硬膜外にオピオイドを混ぜてはいけない
- 薬事承認にある濃度でなければいけない
- 機械式ポンプが購入できない
どれもそうですが、教科書に記載してある内容は「理想」です。さまざまな医療機関の状況によって、自分たちのマニュアルをアレンジすることは重要です。
院内のルールを捻じ曲げて、変なことをするのではなく、限られた範囲の中でベストな方法を考え、それぞ実践してくことこそ、妊婦さんにとっても、医療機関にとっても最適な方法。
実際に立ち上げとか、気になる方は、コメント欄でも気軽にご相談してください。
産科麻酔をサブスペとしていると、さまざまな状況に応じてプラクティスを帰ることができます。ですので、うちはこういうルールなんだけど、どうすればいいかなど、そう言ったことについては、事前に相談いただけると嬉しいです。
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