🦐 手術室の薬剤師、全国の算定データを自院でどう使うか
手術室への薬剤師の関わりについて、薬剤部と話し合いたい。そんなとき、「全国ではどうなっているのか」と、比較できるデータを探したことはありませんか。
自院では周術期薬剤管理加算を算定できているのか。できていないとしたら、何が理由なのかを考える場面もありますよね。
ただ、全国の算定率を見るときには、少し注意が必要です。その数字は、何を分母にした割合なのでしょうか。
こんにちは、松田祐典です。
#ワンますラジオでは、臨床に役立つエビデンスをコンパクトに届けています。
今回は、ぼくが2026年に『JMAJ(JMA Journal)』に報告した、都道府県単位の横断観察研究を取り上げます。周術期薬剤管理加算が全国でどれだけ算定され、人員の配置とどう関連しているかを調べた研究です。
算定率は14.3%から20.4%へ
周術期薬剤管理加算は、2022年度の診療報酬改定で導入されました。今回は、その制度導入初期の算定状況を見ています。
使ったのは、NDB(National Database of Health Insurance Claims and Specific Health Checkups of Japan:レセプト情報・特定健診等情報データベース)のオープンデータです。2022年度と2023年度について、都道府県ごとに集計された算定件数を調べました。
全国の算定率は、2022年度の14.3%から2023年度の20.4%へ上昇しています。増加幅は6.1ポイントです。
ここで押さえたいのが、分母です。今回の算定率は、周術期薬剤管理加算の算定件数を、麻酔管理料のⅠ・Ⅱの算定件数で割ったものになります。
「全国の病院の20.4%が算定している」という意味ではありません。病院の数ではなく、算定された件数の比率を見ているんですね。
増加幅が大きかったのは、熊本県の20.8ポイント、長野県の18.0ポイント、岐阜県の15.3ポイントです。全国の変化だけでなく、地域によって広がり方が異なることも分かります。
人員数との相関だけでは、理由を決められない
では、どんな地域で算定率が高いのでしょうか。病院薬剤師数と麻酔科医数を、いくつかの指標で検討しました。
単純な相関では、両職種の絶対数が多い地域ほど、算定率が高い関連がありました。病院当たり、100床当たりの人数でも、中等度の正の相関を認めています。
一方、人口100,000人当たりの人数では、どちらの職種にも統計学的に有意な相関はありません。人口に対する人数と、病院や病床に対する人数では、見え方が違ったわけです。
ただ、これだけで「薬剤師を増やせば算定率が上がる」とは言えません。複数の人員指標を同時に検討した多変量線形回帰では、個別の回帰係数はいずれも統計学的に有意ではありませんでした。
モデル全体では統計学的に有意な関連を認めても、個々の因子の独立した関連までは確認できていません。「薬剤師数が決め手だった」「麻酔科医数が決め手だった」と、理由を絞る結果ではないんです。
地域の関連を、そのまま自院に当てはめない
この研究で扱っているのは、都道府県単位の集計です。個々の病院で、どこに薬剤師が配置され、どのように周術期業務に関わっていたのかまでは分かりません。
地域全体で人員指標と算定率が関連していても、個別の施設で同じ関係が成り立つとは限らないんです。横断観察研究なので、人員配置が算定率の上昇を引き起こしたという因果関係も確定できません。
病院規模や症例構成、手術の集約化、薬剤師の機能別配置、施設基準の届出状況などの影響も残ります。人数だけで説明できると受け取らないことが大切です。
全国や地域の傾向は見えました。でも、自院で算定できていない理由まで、このデータが答えてくれるわけではありません。
ぼくが公開データで研究した理由
ここからは、ぼくの臨床経験から考えることです。研究が直接検証したことではありません。
今回使ったのは、誰でも無料で手に入る公開データです。個々の患者さんのデータではなく、すでに公表されている集計を使うので、ぼくにとっては実行しやすい研究でした。
NDBのデータだけでなく、人員数などを調べるために、別の政府統計も組み合わせています。公開されているデータから問いを立て、研究として形にする。こういう研究の方法もあるんですね。
ただ、データが手に入れば、それだけで研究できるわけでもありません。どの施設で算定できるのか、事前の届出が必要なのか、加算にはどんな要件があるのか。制度の前提を理解する必要があります。
とくに難しいのが、加算と、その分母になる診療報酬を対応させるところです。今回なら麻酔管理料と周術期薬剤管理加算ですが、ほかの加算では対象となる手術などが重なり、分母を決めにくいものもあります。
告示や通知をきちんと読み、何に対する割合なのかを確かめる。公開データを使うときにも、そこは外せません。
明日は、薬剤部と話す材料にする
この研究を読んでも、日常診療がすぐに変わるわけではありません。ぼくが使ってほしいのは、自院の体制について話し合うための外部データとしてです。
たとえば、薬剤部と周術期の関わりを相談するとき。全国や自分たちの地域の算定状況が分かれば、「自院ではどうなっているのか」と話を始める材料になります。
自院で算定できていないなら、施設の規模や人員の状況、制度の要件を踏まえて、その理由を考えていく。地域の数字と、自院で確かめるべきことをつなげる使い方です。
その際も、全国の20.4%は「算定している病院の割合」ではありません。何を数えたデータなのかを共有したうえで、薬剤部との話し合いに使っていただければうれしいです。
In summary
明日から意識したいポイントは、次の3つです。
- 算定率は14.3%から20.4%へ。分母は麻酔管理料の算定件数
- 人員指標との相関は、個別施設の因果関係を示さない
- 全国・地域のデータを、薬剤部と自院の体制を話す材料にする
#ワンますラジオ
公開データでも、地域の違いを調べて論文にすることができます。限界を踏まえつつ、こういう研究にもチャレンジしていただければうれしいです。
Spotifyの「#ワンますラジオ」では、論文の背景も含めて音声で話しています。
通勤中や休憩時間に、ぜひ聴いてみてください。
🎙️ 今回のエピソードはこちら
それでは、また次回の記事で。
お相手は、松田祐典でした。
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