🦐 分娩終盤の「痛い」に、低濃度リドカインという工夫
無痛分娩で、それまで落ち着いていた痛みが、分娩終盤になって再び強くなる。自己調節のボタンを押しても取り切れず、次のレスキューをどうするか迷う場面はありませんか。
速く痛みを取りたい。でも、脚の動きや努責への影響も気になりますよね。
こんにちは、松田祐典です。
#ワンますラジオでは、臨床に役立つエビデンスをコンパクトに届けています。
今回は、Hyugaらが2026年にIJOA(International Journal of Obstetric Anesthesia:国際産科麻酔学誌)に報告した、単施設後ろ向きコホート研究を取り上げます。分娩進行期の突出痛に、低濃度のアルカリ化リドカインを硬膜外投与した研究です。
少量の投与後、痛みはどう変わったか
対象は、それまで良好な脊髄幹鎮痛が得られていたものの、子宮口7 cm以降に突出痛を生じた女性です。研究薬を投与された153人のうち、143人を解析しました。
投与前に90分以下の間隔で医師による追加投与を繰り返していた症例は、カテーテル機能不全の可能性があるとして除外されています。
薬液は、リドカイン0.3%、エピネフリン10 μg/mL、炭酸水素ナトリウム0.1 mEq/mL。麻酔科医が3〜8 mLを選び、投与量の中央値は3 [3–5] mLでした。角かっこ内はIQR(interquartile range:四分位範囲)、CI(confidence interval:信頼区間)と記した箇所は信頼区間を示します。
主に見ているのは、同じ患者の投与直前と5〜15分後で、陣痛時の痛みがどれだけ変わったか。痛みの評価には、0〜100 mmのVAS(visual analogue scale:視覚的アナログ尺度)を用いています。
VASの中央値は50 [30–60] mmから0 [0–0] mmへ低下しました。患者ごとの低下量の中央値は40 [30–60] mm、平均低下量は45.2 mm [95%CI 41.9〜48.4]です。
全143人でVASが低下し、114人(79.7%)は0 mm、126人(88.1%)は10 mm以下になりました。少量の投与後に、大きな鎮痛の変化が観察されています。
一方、運動機能の指標であるmodified Bromage scoreは、138人(96.5%)で不変、5人(3.5%)で増加。母体低血圧と新規胎児心拍数異常は、それぞれ6人、4.2% [95%CI 1.6〜8.9]に認められました。
痛みが下がったという結果だけで、安全性まで結論づけることはできません。
「よく効いた」から、どこまで言えるか
ここで押さえたいのは、鎮痛の主解析が対照を置かない投与前後比較だという点です。通常のレスキュー法より優れていると示した研究ではありません。
誰にこの薬を使うかは無作為に決めておらず、評価も盲検化されていません。対象の選ばれ方や評価の影響を受ける、観察研究の限界があります。
冷覚消失範囲の頭側への拡大は、患者ごとの中央値で1皮節でした。著者らは、範囲の広がりが小さかったことから、ブロックの強さが増した可能性を挙げています。ただし、これも観察所見からの解釈です。
運動機能の評価は投与後早期のもの。スコアが変わらなくても、努責が十分にできるか、遅れて筋力が低下しないかまでは分かりません。
分娩転帰については、研究薬を使わず脊髄幹鎮痛下で経腟分娩した762人と、経産歴別に記述的な比較をしています。鎮痛効果の対照群ではなく、患者背景の違いを調整して薬剤の影響を確かめた比較でもありません。
分娩第2期の時間には、レスキュー投与前の時間も含まれます。「この薬で分娩が短くなる」「器械分娩に影響しない」とは結論できないんです。
維持鎮痛も続いていたため、鎮痛が続いたことを研究薬だけの効果に帰属することはできません。痛みの改善は注目に値しますが、持続や分娩への影響は、次の比較研究で確かめる課題です。
ぼくが面白いと感じたのは、濃度の工夫
ここからは、ぼくの臨床経験から考えることです。研究が直接検証したことではありません。
PCEA(patient-controlled epidural analgesia:患者自己調節硬膜外鎮痛法)のボタンを押すと、基本的には維持液と同じ濃度の薬液が入ります。分娩終盤の痛みに、それだけでは対応しづらい場面があるんですよね。
分娩第2期や、その少し前になると、体性痛への対応が必要になります。回旋異常があると、それが早く出てくることもある。体性痛を取るには、より濃い濃度の局所麻酔薬が必要になるので、PCEAだけではなかなか対応できないんです。
今回、特に興味を持ったのは、リドカインを0.3%まで薄くして、少量で鎮痛を得ようとする工夫です。リドカインの立ち上がりの速さを生かしながら、運動ブロックにも目を向けています。
ぼく自身、この0.3%という濃度を使った経験はありません。ほかの局所麻酔薬との関係も、単純な濃度の割り算では捉えられないんです。
だからこそ、臨床で考えたレシピを、感触だけで終わらせず、データにしたところがめちゃめちゃいいですね。
明日からは、レスキューの結果を記録する
この処方を、そのまま全員に使うという読み方にはつながりません。今回の対象は、それまで鎮痛が良好で、分娩が進んだところで突出痛を生じた女性です。
まず、自分たちが対応している痛みは、今回と同じ場面なのか。維持液で取り切れない痛みに、どんなレスキューを使っているのか。そこを振り返る材料になります。
そして、何を使い、痛みがどう変わったかを、日々の診療の記録として残す。「うちではこうしています」で終わらせず、検証できる形にしていくことです。
この研究をさらに進めるには、通常のレスキュー法との前向き比較で、鎮痛の発現と持続、時間を追った運動機能、分娩転帰を確かめる必要があります。
日常の工夫を、ほかの人も吟味できるデータにする。その姿勢は、ぼくも続けていきたいです。
In summary
明日から意識したいポイントは、次の3つです。
- 143人の投与前後比較で、88.1%がVAS 10 mm以下に
- 運動機能や分娩転帰への影響は、まだ確定できない
- 日々のレスキューと痛みの変化を、記録して検証する
#ワンますラジオ
臨床の感触を、ちゃんと論文にしていく。良い結果でも、期待した結果が出なくても、その積み重ねには意味があります。
今回の研究には、薬液の工夫と、それをデータで示す姿勢の両方に刺激を受けました。
Spotifyの「#ワンますラジオ」では、論文の背景も含めて音声で話しています。
通勤中や休憩時間に、ぜひ聴いてみてください。
🎙️ 今回のエピソードはこちら
それでは、また次回の記事で。
お相手は、松田祐典でした。
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