🦐 GLP-1受容体作動薬、覚醒まで備えていますか?
術前診察で「普段、使っているお薬はありますか」と尋ねる。自由診療でマンジャロを使っている患者さんは、そのことを言い出しやすいでしょうか。
使用歴が分かっても、「休薬をどうするか」だけで確認を終えていないでしょうか。今回は、逆流と肺誤嚥を分けながら、導入から覚醒までの管理を考えます。
こんにちは、松田祐典です。
#ワンますラジオでは、臨床に役立つエビデンスをコンパクトに届けています。
今回は、Potterらが2026年に『Anaesthesia』に報告した、全国前向き多施設観察コホート研究を取り上げます。調べたのは、GLP-1(glucagon-like peptide-1:グルカゴン様ペプチド1)受容体作動薬の使用と周術期の転帰です。
使用者で多かった、逆流を含む複合イベント
英国119施設で、麻酔科医の管理下で手術や処置を受ける47,039人を調べた研究です。対象は18歳以上の成人で、産科処置は除外されています。
主要評価項目は、薬の使用割合。術前3か月以内に使用していたのは1,348人(2.9%)で、マンジャロなどの成分であるチルゼパチドも、この薬剤群に含めています。
肺誤嚥および/または胃内容物逆流は、副次評価項目です。発生したのは使用群で19人、1.41% [95%CI 0.85〜2.19]、非使用群では57人、0.12% [95%CI 0.09〜0.16]でした。
ここで、何を数えたかが大切です。逆流は、胃内容物が口腔咽頭へ移動したことの観察。肺誤嚥は、気管や肺に胃内容物が入った証拠を認めることを指します。
使用群の19件すべてで逆流を認めましたが、肺誤嚥を伴ったのは2件でした。大半は肺誤嚥を伴わない逆流であり、この複合イベントをそのまま「肺誤嚥」と読むことはできません。
半数以上は、覚醒時に起きていた
使用群の19件の内訳は、導入時3件、維持中5件、覚醒時10件、発生時点不明1件。覚醒時が52.6%を占めていました。
導入を乗り切ったら、それで終わりではないんですね。著者らは、安全な抜管計画まで含めて考える必要性を指摘しています。
ただし、この内訳も逆流と肺誤嚥を合わせたものです。「肺誤嚥の半数以上が覚醒時に起きた」とは言えませんし、特定の抜管方法の有効性を確かめた研究でもありません。
強い関連でも、薬の影響とは決めきれない
施設差を考慮した複合イベントのオッズ比は11.39 [95%CI 6.47〜20.05]でした。ただし、患者背景を調整していない値です。
非使用者のうち、イベントがなかった患者さんの詳しい背景は収集していません。そのため、肥満や糖尿病などの影響を分けて評価できないんです。
担当麻酔科医は薬の使用状況を知っていたので、使用者の逆流に注意が向き、見つけやすかった可能性もあります。観察された関連を、薬そのものによる因果効果とは断定できません。
また、研究の人数は使用割合を推定するために設計され、肺誤嚥の群間差を検証する設計ではありませんでした。使用群でイベントを起こした19人に肺炎や重度肺合併症の報告はありませんが、それだけで重症化のリスクがないとも言えません。
術前休薬を指示されたのは使用者の30.0%で、管理にはばらつきがありました。この研究だけで、安全な休薬期間や、どの予防策が有効かを決めることはできません。
「使っています」と言い出しにくいかもしれない
ここからは、ぼくの臨床経験から考えることです。研究が直接検証したことではありません。
自由診療で、痩せるためにマンジャロを使っている。そんな患者さんには、保険診療とは違うところで使う薬を「言っていいのかな」とためらったり、「痩せるためだけだから、大したことではない」と受け止めたりする心理が働くのではないでしょうか。
普段のお薬を尋ねるだけでは、こちらが知りたい使用歴が抜ける可能性を、ぼくは気にしています。
この話題について、学会でもっと議論してほしいというもどかしさもあります。ぼくが見聞きする範囲では、シンポジウムや講習で十分に取り上げられている実感がありません。「休薬の対象です」の先にある、逆流や肺誤嚥への備えまで共有したいんです。
米国の産科麻酔学会(SOAP)で、胃エコーのハンズオンの講師をしていたときにも、この薬剤群について「日本では問題になっていないか」と聞かれました。そのときから、気になっている話題です。
日本で問題が表面化しにくい背景には、ルーチンに胃管を入れる先生が多いことや、非常に肥満度の高い患者さんが少ないこともあるのかもしれません。これはぼくの見立てで、胃管の予防効果や、日本の発生頻度を示すデータではありません。
誤嚥への備えは、麻酔科医が責任を持つ問題です。だからこそ、休薬の話だけで終わらせず、周りと共有していきたいんですよね。
薬の確認から、抜管までつなげる
明日からの術前確認では、自由診療で痩せるために使っている薬も、確認の範囲に入れたいところです。患者さんが言い出しにくいかもしれない、と意識して尋ねます。
新しい薬は、名前を聞いても系統がすぐに分からないことがあります。周術期の薬を薬剤師の先生に確認してもらい、「こういう系統の薬です」と教えていただけると、すごく助かりますね。
使用が分かったら、逆流や肺誤嚥に関わる情報として、周りのスタッフと共有する。そして、導入時の気道確保だけでなく、覚醒・抜管時まで含めて管理を考えます。
この論文が示したのは、多様な管理が行われている中で、使用群に複合イベントが多く報告されたことです。休薬したかどうかだけで安全と判断せず、起こり得ることを周りと共有していきたいですね。
In summary
明日から意識したいポイントは、次の3つです。
- 使用群で多かった複合イベントの大半は、肺誤嚥を伴わない逆流
- 導入だけでなく、覚醒・抜管時まで備える
- 自由診療の薬も確認し、薬剤師と系統を確かめて共有する
#ワンますラジオ
「普段のお薬はありますか」という問いで、どこまで使用歴を拾えているか。次の術前診察では、患者さんが言い出しにくい薬もあるかもしれない、と意識してみてください。
Spotifyの「#ワンますラジオ」では、論文の背景も含めて音声で話しています。
通勤中や休憩時間に、ぜひ聴いてみてください。
🎙️ 今回のエピソードはこちら
それでは、また次回の記事で。
お相手は、松田祐典でした。
100人以上の方達が購読中
いつでも購読解除可能です