🦐 なぜCSEは無痛分娩の標準になれないのか?
こんにちは、松田 祐典です。
昔の講演リバイバルシリーズが、なかなか好評だったので、しばらくはこのシリーズをお届けしようと思います。
そもそも学会発表だけですと、あとからアーカイブも見ることはできないので、こういった形で残しておくのは、何気に重要だと思っています。
もし、以前の講演でこれが良かったというのがあれば、教えてください。
🐙 もくじ
1.🌸 日常の一枚
2.🐳 無痛分娩は、やっぱり硬膜外が基本
3.🎯 理想的な無痛分娩とは?
4.⚡ CSEの最大のメリットは「即効性」
5.🧷 硬膜外鎮痛が安全なワケ
6.⚠️ いちばん気になるのは胎児徐脈
7.🪡 実は大事な「カテーテルの信頼性」
8.🧭 硬膜外鎮痛を早く効かせる裏技
9.🧠 麻酔科的思考
🦺 「安全第一」を実践できているか
🤔 “その数分”の価値を考える
🍭 産科麻酔で本当に大切なこと
✅ 明日に活かせる臨床スキル
10.📨 お知らせ
🌸 日常の一枚
少しずつ、桜が芽吹いてくる季節となりました。
厚生労働省まわりには、日比谷公園をはじめ、さまざまな桜の名所が存在します。
毎日というわけにはいきませんが、ほとんどデスクワークで運動量が少なくなってしまうため、お昼休みには積極的に散歩をしています。
次のニュースレターでは、きっと満開の桜をお届けできると思います。
🐳 無痛分娩は、やっぱり硬膜外が基本
無痛分娩を始めるとき、硬膜外単独でいくのか、それともCSE(combined spinal epidural analgesia)でいくのか。
これは産科麻酔に関わる人なら、一度はしっかり考えたいテーマ。
もともとは、2014年の日本産科麻酔学会で行われたpros & consが、この話の出発点です。
当時、ぼくは硬膜外単独を、入駒慎吾先生(現 LA Solutions)がCSEを推す立場で登壇しました。
その後、DPE(dural puncture epidural)という選択肢も広がってきましたが、それでもなお、ぼく自身の基本的な考えは大きく変わっていません。
無痛分娩の基本は、硬膜外単独でよい。
もちろん、CSEには利点があります。
効き始めが速い。
初期鎮痛が得られやすい。
状況によっては、手技的な安心感もある。
でも、それでもなお、スタンダードとして考えるなら、ぼくは硬膜外単独を選びます。
なぜか。
それは、「速さのために引き受けるリスク」が決して小さくないからです。
無痛分娩は、単に痛みを早く取ればよいという話ではありません。
分娩全体を通じて、安全に、再現性高く、最後まで使いやすい方法であることが大切です。
その視点で考えると、やはり硬膜外単独のバランスが最もよい。
それが、今でも変わらないぼくの考えです。
🎯 理想的な無痛分娩とは?
そもそも、理想的な無痛分娩とは何でしょうか。
少なくとも、次の4つは外せません。
・鎮痛がしっかり効くこと
・分娩進行への影響が最小限であること
・胎児への影響が最小限であること
・母体の副作用が少ないこと
つまり、ただ「早く効く」だけでは、十分ではありません。
SAFE
EFFECTIVE
HARMLESS
この3つをどう両立させるか。
そこが、本当の意味での無痛分娩の質だと思います。
⚡ CSEの最大のメリットは「即効性」
CSEのメリットは、とてもわかりやすい。
オンセットが速い。
コクラン・レビューでは、CSEは硬膜外単独と比べて、鎮痛が有効になるまでの時間が平均5.42分短いと報告されています。
また、完全な鎮痛に到達するまでの時間も、
- 硬膜外単独:21.9±20.1分
- CSE:10.8±14.6分
初期鎮痛の速さではCSEに優位性があります。
Gambling D, et al. A randomized controlled comparison of epidural analgesia and combined spinal-epidural analgesia in a private practice setting. Anesth Analg. 2013; 116: 636-43.
この差は、現場では確かに魅力的です。
特に、妊婦さんがかなり痛がっている場面では、
「早く効かせたい」
という気持ちになるのは自然だと思います。
さらに、CSEにはこんな利点もあります。
- カテーテルの入れ替え率がやや少ない
- 帝王切開移行時のカテーテル不全が少ない可能性がある
- 髄液の確認によって、正中にいる安心感を持ちやすい
なので、CSEが支持される理由はよくわかります。
ただし、ここで大事なのは、
その速さに、どんな代償があるのか
を一緒に見ることです。
🧷 硬膜外鎮痛が安全なワケ
1.L3/4はセーフゾーンか?
CSEは、当然ながらくも膜下腔に針を進めます。
でも、その前提として知っておきたいのが、
触診による椎間同定は、思っているほど正確ではない
ということです。
Jacoby線を用いた触診で正しい椎間を選べた割合は約29%。
つまり、3人に1人も正確ではない。
しかも妊婦さんでは、骨盤の傾きや体位の影響もあり、ズレが起きやすい。
この前提で、くも膜下腔へ毎回針を進めるということをどう考えるかは、やはり重要です。
さらに、脊髄円錐の位置にも個人差があります。
L2-3椎間に脊髄円錐が存在する例が4.0%。
Saifuddin A, et al. The variation of position of the conus medullar is in an adult population: a magnetic resonance imaging study. Spine 1998; 23: 1452-6.
「この高さなら絶対安全」と言い切れない。
ぼく自身、この点をかなり重く考えています。
2.長期的な神経障害のデータ
NAP3の報告では、長期的な神経障害の頻度について、
- 硬膜外:10万例あたり0.6
- CSE:10万例あたり3.9
もちろん絶対数としては非常に少なく、単純比較には注意が必要です。
それでも、
“早く効くから”という理由だけで追加の侵襲を標準化してよいのか
という問いは残ります。
2014年日本産科麻酔学会学術集会より
3.速いことの価値は、思ったほど決定的ではない
CSEは早く効きます。
これは事実です。
でも、その一方で、
- レスキュー鎮痛の必要性
- 母体満足度
については、硬膜外単独と大きな差がありません。
つまり、
最初の数分は確かに速いけれど、最終的な体験としては大差ない
という見方もできます。
そうなると、
数分の短縮のためにくも膜下穿刺をルーチンに追加する価値をどう考えるか。
ここで、ぼくはやはり慎重になります。
⚠️ いちばん気になるのは胎児徐脈
CSEで、ぼくが最も気にしているのは胎児徐脈です。
急速に強い鎮痛が得られると、母体のカテコラミンバランスが急に変化します。
その結果、子宮過収縮が起き、胎児徐脈につながることがあります。
- 子宮緊張上昇:硬膜外17%、CSE 41%
- 胎児心拍異常:硬膜外3%、CSE 27%
Abrao KC, et al. Elevation of uterine basal tone and feral heart rate abnormalities after labor analgesia. Obst Gynecol. 2009; 113: 41-7.
この数字は、やはり軽く見られません。
実際、CSE直後に胎児徐脈が出現し、緊急帝王切開となり、部分的な胎盤早期剥離を認めた症例報告あります。
もちろん、症例報告をそのまま一般化しすぎるべきではありません。
それでも、
速く痛みを取ることには、代償がある
という認識は必要だと思います。
そして大事なのは、これはCSEだけの問題ではなく、
“痛みが極限まで強くなった状態で、一気に鎮痛を取ること自体が危ない”
ということです。
だからこそ、無痛分娩では、
痛みが極端に強くなる前に、計画的に導入することが大切になります。
🪡 実は大事な「カテーテルの信頼性」
ここは、あまり強調されないけれど、現場ではかなり重要なポイント。
CSEでは、最初に効いているのは脊髄くも膜下麻酔の効果です。
つまり、その時点では、
硬膜外カテーテルそのものが本当に信頼できるかどうかは、まだ分からない。
本当にそのカテーテルが信頼できると言えるのは、
くも膜下の薬効が切れたあと、硬膜外カテーテルからの投与で安定した鎮痛が得られて初めてです。
その確認には、どうしても時間がかかります。
場合によっては、2〜3時間かかることもあります。
一方、硬膜外単独であれば、ローディング後20分程度で、
このカテーテルは使える
と判断しやすい。
これは、その後に緊急帝王切開になったときのトップアップ、
途中で鎮痛が破綻したときの対応、
さらには差し替えのタイミング判断にも大きく関わってきます。
なので、初期鎮痛の速さだけでなく、
“早い段階で信頼できるカテーテルを持てるか”
という視点では、硬膜外単独には大きな強みがあります。
🧭 硬膜外鎮痛を早く効かせる裏技
鎮痛発現を早める工夫としては、
- 局所麻酔薬のアルカリ化
- 薬液を温める
- DPEを活用する(くも膜下穿刺はしますが、、、)
といった方法もあります。
つまり、
「早く効かせたい」=「CSEしかない」ではない
ということです。
この視点は、今の時代にはかなり大事だと思います。
ただ一方で、DPEであっても、
「わざわざ硬膜を傷つける必要があるのか」
という議論は残ります。
このあたりは、施設文化や術者の哲学も出るところですが、
それでもぼくの基本は変わりません。
まずは硬膜外単独。
そして、どうしても必要な場面で、他の選択肢を考える。
その順番が自然だと思っています。
🧠 麻酔科的思考
今回の話で、ぼくが一番大事だと思っているのは、
速さと安全性は、同じではない
ということです。
初期鎮痛が速いことは、たしかに魅力です。
でも、分娩はその瞬間だけで終わるものではありません。
その後の数時間、さらに緊急対応まで含めて、
最後まで安全に扱いやすい方法であるかどうか。
そこまで見て初めて、方法の価値が決まります。
🦺 「安全第一」を実践できているか
現場では、ときどき
「CSEの方が早く効くから良い」
という議論になりがちです。
でも、そこに少し立ち止まりたい。
- その速さは本当に必要なのか
- その数分のために何を引き受けているのか
- その後のマネジメントまで含めると、どちらが合理的か
こうした問いを持つことが大切です。
安全第一と口では言っておきながら、品質第一となっていませんか?
🤔 “その数分”の価値を考える
産科麻酔では、
妊婦さんがつらそうだから早く楽にしてあげたい、
という気持ちはとても自然です。
でも、そこで一気に痛みを取ることが、
別のリスクにつながることもあります。
だから麻酔科医は、
単に「早く効く方法」を選ぶのではなく、
“その数分が持つ意味”を冷静に考える仕事
だと思っています。
🍭 産科麻酔で本当に大切なこと
産科麻酔で本当に大切なのは、
単一の手技を信仰することではありません。
大切なのは、
- どんな患者に
- どんなタイミングで
- どんな方法を
- どんなリスクとともに選ぶのか
を整理できることです。
その上で、日常診療の基本形として何を置くか。
ぼくは、そこに硬膜外単独を置くのが最も自然だと思っています。
✅ 明日に活かせる臨床スキル
- 無痛分娩の基本は、まず硬膜外単独で考える
- CSEの最大のメリットは初期鎮痛の速さ
- ただし、くも膜下穿刺には追加の侵襲とリスクがある
- 胎児徐脈や子宮過収縮は、CSEを考えるうえで無視できない
- 硬膜外単独は、カテーテルの信頼性を早く判断しやすい
- 「早く効くこと」と「最後まで安全に使いやすいこと」は同じではない
- DPEや薬液調整など、速さを補う工夫はCSE以外にもある
今回の話は、CSEを全面否定したいわけではありません。
実際、少し不安がある場面で、CSEの針で髄液流出を確認することが安心につながるケースもあります。
だから、CSEは選択肢として十分に意味があります。
ただし、それでもなお、
スタンダードは何か
と問われたら、ぼくの答えは今でも変わりません。
Traditional Epidural is the BEST Epidural.
やっぱり、無痛分娩の基本は硬膜外単独。
ぼくはそう考えています。
今回の話は、日本産科麻酔学会が学術誌「分娩と麻酔」にもあります。
10年前のまとめですが、いまでも通用する一般的な考え方となっています。
気になる方はぜひ、お手に取ってください。
📨 お知らせ
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
ぜひ、このワンますニュースを気に入っていただけたら、いいねとかコメントとか、いただけると嬉しいです。
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最後までお付き合いいただきありがとうございました。
引き続き、ワンますニュースで学びになる情報を振り撒いていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
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