🦐 「日本の薬価は安い」の前に、何と何を比べているのか

公表価格の違いと、製薬団体も認める日本市場の魅力

「日本の薬価は海外より安い」。製薬業界から、繰り返し聞く言葉です。

先日、東洋経済オンラインの「製薬企業が一様に叫ぶ『日本の薬価は安い』は真実か」という記事に出会いました[1]。これまでの予想と反して、ファクトが綺麗に並べられていて、首肯しながら、深く考えさせられました。

有料記事なので詳細は控えますが、ぼくが最も重要だと感じたのは、日本の薬価が「安く見える」カラクリがある、という指摘。

「安い」と言われるその数字は、本当に同じ条件で比べられているのでしょうか。

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公表されているのは、調整の前か、後か

日本で私たちが目にする薬価は、企業が自由に掲げた希望価格ではありません。
決められた算定ルールに基づき、企業との協議や審査を経て決まった公定価格です。企業の希望より低い価格に決まることもありますが、公表されるルールに則って決められ、中医協総会を経て価格が決定されます[2]。

一方、海外には、企業が希望する定価を公表し、政府や保険者が企業と価格交渉し、値引きやリベートを取り決め、その条件は非公開となっています。例えばイギリスでは、公表価格のままでは費用対効果が見合わない薬について、企業が割引を提示し、患者が使えるようにする仕組みがあります。その割引が、公表価格に反映されるとは限りません[3]。

つまり、日本では様々な調整を経た後の数字が価格として表に出ている一方、海外では割引前の数字が表に出ています。

仮に最終的な支払額が同じでも、片方は調整後の価格を、もう片方は割引前の価格を見せていれば、外から見える数字には差が生まれます。その差が、そのまま「日本の薬価の安さ」と受け取ってしまうことが多いです。

問題は、まさにここの点です。

見えている価格が違うことと、実際に支払われる金額が違うことは、同じではありません。「日本の薬価は安い」と議論する前に、何と何を比べているのかを確かめる必要があります。



日本市場には、保険適用の広さと速さがある

日本の医薬品市場を評価するうえで、価格だけを見るのは十分ではありません。保険適用の広さと速さも、見落とせない要素です。

PhRMA(ファルマ:米国研究製薬工業協会)が2023年に公表した資料によれば、2012〜2021年に世界で発売された新薬460品目のうち、公的保険で償還される割合は、日本が48%。比較対象となったOECD諸国の中で、米国、ドイツに次ぎ、イギリスと同率の3位でした[4]。ここでいう割合は、薬代の何割を保険が負担するかではなく、対象の新薬のうち何割が保険で使えるか、という意味です。

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加えて日本では、新医薬品の承認から薬価収載までの標準的な事務処理期間が、原則60日以内、遅くとも90日以内と定められています[2]。

有効性と安全性が確認され、薬事承認を受けた新薬が、速やかに保険診療の中で使えるようになる。この仕組みは、患者にとって重要であると同時に、薬を販売する企業にとっても大きな魅力のはずです。



製薬団体自身も、その魅力を認めている

これは決して推測ではありません。製薬団体自身も、そう述べています。

2025年8月6日の中医協費用対効果評価専門部会で、日本医師会の委員が、保険適用の速さや、薬価が保険償還に直結する点を挙げ、日本市場の魅力を各団体に尋ねました[5]。

これに対し、先出のPhRMAは、日本では薬事承認から発売までが60日・90日と短く、米国以外の国では期間が延びていることに触れ、この速さを日本市場の大きな魅力として評価しました。

日本製薬工業協会(製薬協)も、日本の薬事制度と保険償還は、世界的に誇れる速さで患者へのアクセスを実現してきたと述べています。

EFPIA(エフピア:欧州製薬団体連合会)も、委員が挙げた点を日本市場の魅力として認め、患者が速やかに恩恵を受けられることのメリットに言及しました。

制度への改善要望はありつつも、各団体が、迅速な保険適用と患者アクセスを日本の強みとして認めているわけです[5]。

それならば、「日本の薬価は安い」という議論でも、こうした市場の魅力を併せて評価すべきではないでしょうか。

本当に採算が合わないほど安い市場なのだとしたら、なぜ企業はプロモーションや学会協賛に多額の費用を投じるのか。その点に、一定の疑問は残ります。



外圧を理由に、価格を見えなくしてよいのか

もうひとつ、触れておきたいことがあります。

米国が自国の薬価を他の先進国の最も低い水準に合わせようとするMFN(最恵国待遇)政策への対応など、外圧があるからといって、公定薬価を非開示にするような不透明な政策をとることには、私は賛成できません。

価格を公表していることが不利に働くから、今度は価格を見えなくする。それで、国民の納得が得られるのでしょうか。

まず必要なのは、見ている数字を整理することです。企業の提示する価格なのか。国との調整を経た価格なのか。割引やリベートが差し引かれる前なのか、後なのか。

そのうえで、保険適用の広さや速さも含めて、日本市場を評価してもらいたい。


「日本の薬価は安い」という言葉だけで議論を進めるのではなく、比較している価格の中身を確かめること。

そのファクトを共有したうえで、日本の薬価のあり方を議論することが重要だと感じています。


参考文献

[1] 東洋経済オンライン.「製薬企業が一様に叫ぶ『日本の薬価は安い』は真実か」

[2] 厚生労働省.「医療用医薬品の薬価基準収載等に係る取扱いについて」

[3] 英国製薬産業協会(ABPI).「Market Access in NHS Wales」.2019年9月.

[4] 米国研究製薬工業協会(PhRMA).「Global Access to New Medicines Report」.2023年.

[5] 厚生労働省.「中央社会保険医療協議会 費用対効果評価専門部会 議事録」.2025年8月6日.

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