🦐 薬の値段はどう決まる?手術室から薬価制度を読む

いつも使う薬の値段から、加算と価格調整、医療費を支える制度を一緒に考えます。

麻酔で使う薬を選ぶとき、効果や循環への影響は考えますよね。その薬の値段がどう決まったのか、立ち止まることはあるでしょうか。

「薬価の制度は、自分の臨床からは遠い」。でも、同じ効果の薬があったとき、どちらを使うかを考える場面は、ぼくたちの現場にもあります。

こんにちは、松田祐典です。

#ワンますラジオでは、臨床に役立つエビデンスをコンパクトに届けています。

今回は、厚生労働省が2026年7月8日の中医協(中央社会保険医療協議会)薬価専門部会に出した参考資料「現行の薬価基準制度について」(薬-2参考)を取り上げます。スペシャル企画「厚労行政を勉強する」の第1弾として、薬価算定(薬の価格を決めること)の全体像を示す図を中心に読んでいきます。

ぼくは厚労省の保険局医療課にいましたが、薬価制度の運用には関わっていません。分からないところも含めて、みなさんと一緒に勉強する回です。

薬価は、決めたあとも変わっていく

薬価基準(保険で使える薬の品目と価格の一覧)は、厚生労働大臣が定めるものです。「保険で何を使えるか」という品目表と、「いくらか」という価格表の2つの性格があります。

健康保険、国民健康保険、各種共済で共通の基準です。堅い言葉を少しほどくと、「言ってみれば、保険償還の価格」、つまり保険で薬に支払われる価格です。

資料の全体図には、薬価算定から、新薬として使われる段階、その後の段階までが並んでいます。長期収載品(後発医薬品が出た後も保険に載る先発の薬)や、後発医薬品(ジェネリック)にも、それぞれのルールがあるんですね。

下の図は、「現行の薬価基準制度について」の3ページです。「薬価算定」「新薬」「長期収載品・後発医薬品」の各欄を見ると、薬のライフサイクルに沿って制度が組まれていることが分かります。ただし、全体像を示す図なので、個々の薬がいつ、いくらになるかまでを、この図だけで判断することはできません。

出典:厚生労働省「現行の薬価基準制度について」(中医協 薬価専門部会 薬-2参考・2026年7月8日)p3より引用

出典:厚生労働省「現行の薬価基準制度について」(中医協 薬価専門部会(2026年7月8日)の資料ページ)

まず立ち止まりたいのは、この図です。制度を説明するとき、最初の2枚ほどのスライドだけで話の大部分を説明できて、あとの資料はそれを細かくしたものになる。薬価も、まずこの見取り図から入ると、細かな制度の置き場所が見えてきます。

最初の値段は、2つの方式で決まる

新薬の価格を決めるとき、大きな分かれ道になるのが、比較できる類似薬があるかどうかです。

類似薬効比較方式(似た薬の価格を基準に決める方法)のうち、方式(Ⅰ)では、新薬の1日薬価(1日分の使用量にかかる薬の価格)を最も似た薬の1日薬価に合わせます。

類似薬がなければ、原価計算方式(費用などを積み上げて決める方法)です。製造輸入原価、一般管理販売費、営業利益、流通経費、消費税を積み上げます。

研究開発にいくらかかったか、原材料はいくらか、流通にはどれくらいかかるか。それを積み上げて決めます。似た薬と比べるのか、費用から考えるのか。まず、その違いを押さえると整理しやすくなります。

下の図は、同じ資料の5ページです。「類似薬あり」「類似薬なし」の分岐と、その後の薬の特徴に応じた上乗せ、外国の平均価格との比較による調整の順を見ると、基準となる価格から最終的な算定へ進む流れが分かります。ただし、個々の薬にどの加算が付くかや、最終価格までは、この図だけでは決まりません。

出典:厚生労働省「現行の薬価基準制度について」(中医協 薬価専門部会 薬-2参考・2026年7月8日)p5より引用

出典:厚生労働省「現行の薬価基準制度について」(中医協 薬価専門部会(2026年7月8日)の資料ページ)

加算で評価し、保険に載った後も調整する

補正加算(薬の特徴を評価して価格に上乗せする仕組み)には、いくつもの種類があります。資料では、画期性加算が70〜120%、有用性加算(Ⅰ)が35〜60%、有用性加算(Ⅱ)が5〜30%です。

麻酔薬を例に考えてみます。同じ薬効でも血管痛がない、あるいは血行動態の安定性が高いと示されたら、どう評価するのか。画期性や有用性という言葉を、ぼくたちの臨床に引き寄せて読む入口になります。

市場性加算(市場が小さい薬などを評価する加算)もあります。対象の患者さんが少なくても、社会的に重要な薬の研究開発をどう支えるか、という話です。

資料には、小児への使用や特定の用途などに着目した加算も並びます。同じ「加算」でも、評価する対象が違うんですね。

その後にあるのが、外国平均価格調整(外国の平均価格との比較による調整)です。外国より著しく高ければ下げ、低ければ上げる方向に調整します。

保険で使える薬として載った後にも、革新的新薬薬価維持制度(対象となる新薬の薬価を維持する仕組み)や、市場拡大再算定(市場が拡大した薬の価格を見直す仕組み)があります。

たとえば、当初は使う人が少ない前提だった薬が、その後、使える病気が増えて広く使われるようになったら、どうでしょうか。「ちょっと、それ、最初と話が違わない?」というところから、価格を見直す意味を考えました。これは仕組みをつかむための説明で、個別の適用条件をすべて示したものではありません。

古い薬の価格をどう考えるか

ここからは、ぼくの考えです。資料に書いてあることではありません。

新薬の開発にはコストがかかります。だから薬価を維持してほしい、という話を聞くと、そりゃそうだなと感じます。

でも、その後も新しい薬は出てきます。ほかの薬に置き換わっていく中で、ずっと同じ値段を維持する必要があるのか、という疑問もあるんです。

iPhoneにたとえてみます。iPhone 7とiPhone 18が同じ値段だったら、おかしくないですか?

時代とともに薬価が下がっていくのは、当たり前といえば当たり前です。新しい薬を評価することと、その後の価格を見直すこと。その両方を制度の中でやっている、とぼくは捉えています。

手元の薬から、医療費を考える

薬価がどう決まり、どう変わるかを知ることは、普段使う薬を知ることにもつながります。同じ効果なら高い薬を使うか、安い薬を使うか。そんな身近な問いにもつながります。

効果が同じであれば、費用の小さい選択肢を考える。その視点は、臨床から離れたところだけにあるものではありません。

新しい薬には加算を付け、その後は価格を調整する。そうした仕組みを通じて、増えていく医療費を少しでも抑えようとしているのです。

明日、いつもの薬を手に取ったとき、その価格はどう決まり、これからどう変わっていくのか。そこから制度を考え始めることができます。

In summary

明日から意識したいポイントは、次の3つです。

  • 新薬の薬価は、類似薬との比較か原価の積み上げで決まる
  • 加算で薬の特徴を評価し、保険に載った後も価格を調整する
  • 同じ効果なら費用も考え、手元の薬から医療費を見る

#ワンますラジオ

制度は、やっぱり難しいですね。ぼくも分からないところを確かめながら、みなさんと一緒に勉強していきます。

Spotifyの「#ワンますラジオ」では、資料を画面に出しながら音声で話しています。

通勤中や休憩時間に、ぜひ聴いてみてください。

🎙️ 今回のエピソードはこちら

それでは、また次回の記事で。

お相手は、松田祐典でした。

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