🦐 薬価はなぜ下がる?手術室から考える調整幅2%のしくみ
手術室で使う薬を選ぶとき、その薬の値段がどう変わるのかまで考えることはありますか。毎日使うものでも、薬価の制度となると少し遠く感じるかもしれません。
でも、普段使っている薬にも、国が決める価格と実際に取引される価格があります。その違いをたどると、麻酔科の現場にもつながってくるんです。
こんにちは、松田祐典です。
#ワンますラジオでは、臨床に役立つエビデンスをコンパクトに届けています。
今回は、厚生労働省が2026年7月8日の中医協(医療の価格などを議論する会議)薬価専門部会で示した「現行の薬価基準制度について」(薬-2参考)を取り上げます。スペシャル企画「厚労行政を勉強する」として、24〜28ページを読み、すでに使っている薬の価格を見直すしくみをたどります。
薬価は、実際の取引価格を調べて見直す
薬価は、保険診療で使う薬の公定価格です。薬価基準(保険で使える薬の品目と価格の一覧)は、実際にいくらで取引されているかを調べる「薬価調査」の結果に基づいて改定します。
資料にある令和8年度の改定は、令和8年4月1日に実施されました。改定率は医療費ベースで▲0.86%、薬剤費ベースで▲4.02%です。
この2つは、何を全体として計算するかが違います。医療費全体に対する割合なのか、薬剤費に対する割合なのか。数字を見るときは、そこを分けて読む必要があります。
下の図は、「現行の薬価基準制度について」の25ページです。「改定率」の欄を見ると、医療費ベースと薬剤費ベースの数字が併記されていることが分かります。これは全体の改定率で、すべての薬が同じ割合で下がるという意味ではありません。
出典:厚生労働省「現行の薬価基準制度について」(中医協 薬価専門部会(2026年7月8日)の資料ページ)
価格を公に示した告示数は12,272、規格などで分かれる品目数は15,789です。普段使うプロポフォールなら、ディプリバン・丸石・サンドなどの銘柄をまとめたものが告示数で、20 mLと100 mLのように規格が違えば品目は分かれます。
「薬価が下がった」と聞いても、薬の数だけ価格を確かめる作業がある。その規模も、この資料から見えてきます。
長い名前の中身は、価格と数量で平均すること
改定の基本になるのが、「市場実勢価格加重平均値調整幅方式」です。何言ってんねん、って思いますよね。ぼくも二度、読み直しました。
市場実勢価格は、実際に取引されている価格のこと。加重平均は、取引された数量も反映して平均する方法です。
同じ薬でも、ある医療機関には安く、別の医療機関にはそれより高く納入されることがあります。そこで、値段だけを並べて平均するのではなく、それぞれの値段でどれだけ納入されたかを合わせて計算します。
安く納入された薬が多いのか、高く納入された薬が多いのかで、平均も変わるわけです。これを品目ごとに調べます。鬼のような作業です。
資料の式では、税抜きの市場実勢価格の加重平均値に消費税を反映し、調整幅を加えて薬価を算定します。
さらに、26ページには、算定ルールを順に適用することも書かれています。その適用順で最初がこの方式、最後が費用対効果評価(費用に見合う効果かを評価すること)です。この順番は、ぼくも資料を読んで初めて知りました。
調整幅2%は、改定前の薬価が基準
薬が医療機関に届くまでには、メーカーと卸が関わります。卸は、メーカーから薬を仕入れて医療機関などへ届ける事業者です。
卸がいなければ、それぞれのメーカーと個別にやり取りすることになります。「この薬とこの薬を入れてほしい」と窓口をまとめられる役割があるんですね。
粗利は、売上から原価を引いた利益のことです。資料では、製造原価とメーカー粗利を合わせたものがメーカー販売価格で、そこに卸粗利が加わると市場実勢価格(卸販売価格)になります。改定前の薬価と実際の取引価格との開きを、乖離率(薬価と取引価格の差を割合で表したもの)として捉えます。
下の図は、「現行の薬価基準制度について」の27ページです。「改定前薬価」「市場実勢価格」「改定後薬価」を見比べると、取引価格を踏まえ、調整幅2%を残して薬価を見直す関係が分かります。しくみを示す図なので、個々の薬の実際の乖離率や値下げ額までは読み取れません。
出典:厚生労働省「現行の薬価基準制度について」(中医協 薬価専門部会(2026年7月8日)の資料ページ)
この2%は、改定前薬価に対する割合です。実際の取引価格の2%を上乗せする、という意味ではありません。
28ページによると、平成12年度改定から「医療機関の平均的な購入価格の保障」という考え方に基づき、「薬剤流通の安定のため」の調整幅2%が設定されています。
実際に取引できる価格を公定価格に反映しつつ、調整幅を設ける。薬価を見直すときの基本は、この関係です。
ここからは、麻酔科医として考える話
ここからは、ぼくの考えです。資料に書いてあることではありません。
麻酔科で働いていると、手術で使う薬は当たり前にそこにあります。使った薬を患者さんに請求できるという前提で働いているので、高い薬か安い薬かを、普段はそれほど意識しません。
一方、ぼくが以前いたカナダでは、麻酔の料金の中に薬の値段も入っていました。麻酔方法にかかわらず料金が決まる、という経験です。
日本では、全身麻酔と脊髄くも膜下麻酔で技術料(麻酔を行う技術への評価)に差があります。こうした制度の違いも、区域麻酔が広まりにくい一因だ、とぼくは見ています。
提案できるとすれば、包括化、つまり薬剤費などをまとめて支払う形です。ただ、日本でどういう包括のしくみにするのかは、また別の難しさがあります。
日本のDPC(診療内容などに応じて医療費をまとめて支払うしくみ)のようなものを、麻酔でも考えるのか。正直、「どうしようね」というところで、具体的な答えまでは出ていません。
明日の麻酔を、制度の側からも眺めてみる
明日、手術室で使う薬を見たとき、「この価格は、実際の取引を調べて見直されているんだ」と考えてみてください。普段の薬と行政の資料が、そこでつながります。
麻酔方法を選ぶ場面にも、薬そのものの値段だけでなく、技術料や薬剤費の支払い方が関わっている。ぼくが考えているのは、そういう制度と臨床の関係です。
ぼくは厚労省にいたことがありますが、行政の資料を読めば何でもすぐに分かるわけではありません。今回も、順番に読んで初めて気づいたことがありました。普段使っている薬を入口に、みなさんと一緒に勉強していきます。
In summary
明日から意識したいポイントは、次の3つです。
- 薬価改定は、実際の取引価格と数量を調べて行う
- 調整幅2%は、改定前薬価に対する割合
- 麻酔の現場を、薬価や支払いの制度からも眺める
#ワンますラジオ
制度の資料も、普段使う薬からたどると、自分の現場の話になります。薬の価格から麻酔の支払い方まで、引き続き一緒に考えていきましょう。
Spotifyの「#ワンますラジオ」では、資料を画面に出しながら音声で話しています。
通勤中や休憩時間に、ぜひ聴いてみてください。
🎙️ 今回のエピソードはこちら
それでは、また次回の記事で。
お相手は、松田祐典でした。
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