🦐 出産費用の保険適用、どこまで決まったのでしょうか
無痛分娩や緊急帝王切開に関わる日々。出産費用の保険適用と聞いても、「制度の話は遠い」と感じることはありませんか。
でも、どんな診療やケアを給付の対象にし、どんな体制を評価するのかは、ぼくら麻酔科医にも関わる話です。いま公開されている資料から、その行方を一緒に見てみましょう。
こんにちは、松田祐典です。
#ワンますラジオでは、臨床に役立つエビデンスをコンパクトに届けています。
今回は、厚生労働省で2026年10月1日に開かれた第1回「妊娠・出産・産後における診療やケアの内容等に関する検討会」の資料と議事録を取り上げます。厚労省にいたときもこの件には関わっていなかった立場から、公開情報を確かめながら読み解きます。
新しい給付の骨格は、すでに示されている
検討スケジュール案では、10〜11月に診療・ケアの体制や内容、施設基準等の検討に必要な着眼点などを議論し、12月頃にとりまとめる予定です。これからすべてを白紙で決めるわけではありません。
資料2には、出産育児一時金に代わる新しい給付の形が示されています。保険診療以外の分娩について、国が分娩1件当たりの基本単価と、施設の体制・役割等を評価する加算(基本単価に上乗せする給付)を設定する仕組みです。
費用は、保険者(医療保険を運営する側)から施設へ直接支給します。現物給付化とは、いまの診療報酬と同じように「分娩を取り扱ったらいくら」という形で支払うことです。
必要な場合の保険診療は別にあり、アメニティ等(快適さなどに関わるサービス)は自己負担として、サービスと費用の関係を見えるようにします。見える化をした上で、アメニティ等には自己負担が出てくる形です。
下の図は、今回の検討会の資料2の7ページ「妊娠・出産に対する支援の強化」です。基本単価と加算、保険診療、アメニティ等の欄を見ると、給付と自己負担を分ける骨格が分かります。具体的な金額や加算の条件までは、この図から読み取れません。
出典:厚生労働省「妊娠・出産・産後における診療やケアの内容等に関する検討会」第1回 資料(検討会(2026年10月1日)の資料ページ)
全ての妊婦さんへの定額の現金給付も示されています。また、当分の間は、施設単位で現行の出産育児一時金を適用することも可能です。
出産育児一時金はなくなります。資料には、当分の間は施設単位で現行制度を適用できる経過措置も書かれています。
算定回数の変化から、どこまで言えるか
資料3では、現在の分娩に関わる保険診療も確認できます。分娩に係る療養の給付(医療保険による診療の給付)の推計は、全保険者ベースで約1,311億3,534万円です。
これは出産育児一時金とは別のもの。出産費用を考えるときには、すでに保険診療で支えられている部分もあるわけです。
もう一つ目に留まるのが、出生数と診療報酬の算定回数の動きです。算定回数とは、保険診療の費用として請求する際に数えられた回数を指します。
下の図は、資料3「出産に係る診療やケア等について(その1)」の13ページです。出生数の点線と算定回数を見比べると、令和6年度から7年度には、出生数が減る一方で吸引娩出術・鉗子娩出術の算定回数が増えています。なぜ増えたかまでは、この図だけでは分かりません。
出典:厚生労働省「妊娠・出産・産後における診療やケアの内容等に関する検討会」第1回 資料(検討会(2026年10月1日)の資料ページ)
検討会では、無痛分娩が広がった影響はないか、という意見が出ています。ただ、これは検討を求める発言であり、無痛分娩が原因だと確認されたわけではありません。
無痛分娩そのものの検討会ではないのに、無痛分娩の話がちょいちょい出てくる。麻酔科医として気になるのは、こういうところなんです。
資料と議事録を、行ったり来たりする
では、こうした資料をどう読むか。ぼくのお勧めは、片方に資料、片方に議事録を置いて、交互に読む方法です。
まずスケジュールを見ると、議論がどの段階にあるのかがつかめます。12月頃のとりまとめに向けた日程を見て、ぼくは、かなり急なスケジュールだと感じました。
次に議事録を読む。誰が何を言ったのかだけでなく、資料のどのページが説明されたのかも分かるんですよ。
ぼくが最初に驚いたのは、冒頭に保険局長が出てきたことです。病院にたとえると、局長は病院長、事務次官は理事ぐらい、というのがぼくの印象で、それだけ大事な案件なんだと受け止めました。
新しい給付も、「分娩を取り扱ったらいくら」という、診療報酬と同じような形で考えるとつかみやすくなります。その基本部分に、体制や役割を評価する加算がつく。
もう、骨格はここに書いてあるんですね。そのうえで、どこまでが分娩の部分で、どこからがアメニティなのかを切り分けて読むと、これから検討することも見えてきます。
加算の中身と、無痛分娩の行方
ここからは、ぼくの考えです。資料に書いてあることではありません。
施設の体制を評価する加算と聞くと、新生児科医や麻酔科医が対応できる体制も関わるのかな、と考えます。ただ、具体的な内容は分かりませんし、ぼくは今回の検討に加わっていません。
また、妊娠・出産に関する議論が一段落すれば、無痛分娩の費用や、誰を保険の対象にするのかも検討されていくのではないか、と見ています。これは今後の見通しで、決まった予定ではないんです。
外から「どうなるのかな」と見ながら、現場が困らない形を考える。厚労省で仕事をした経験から、ぼくは、こうして先の動きを読みながら考える面白さを知りました。
麻酔科医として、制度とどう関わるか
制度の議論を追うことは、社会の中で麻酔科医がどんな役割を担い、なぜ麻酔科医がいないことが問題になるのかを考える入口になります。
決まった制度を受け取るだけでなく、決まる前の資料と議事録を読む。「こんなこと聞いていない」となる前に、いま何が議論されているのかを追っておきたいですね。
ぼく自身は、行政の人たちに役立つ研究をしたいと考えています。出産なびを使った研究でも、麻酔科医がどれぐらい関わっているのかを見る方法を探りました。
ただし、それだけで実際にどれぐらい診療が行われているかまで分かるわけではありません。その時点で示せるエビデンスを一つずつ積むことが、麻酔科医として社会に関わる方法だと考えています。
In summary
明日から意識したいポイントは、次の3つです。
- 新給付の骨格と、未決定の金額・加算を分けて読む
- 算定回数の変化だけで、無痛分娩の影響を決めつけない
- 資料と議事録を併せて、現場に関わる議論を追う
#ワンますラジオ
公開資料を読み解くのも、一つのスキルです。ぼくも分からないところを確かめながら、みなさんと一緒に勉強していきます。
Spotifyの「#ワンますラジオ」では、資料を画面に出しながら音声で話しています。
通勤中や休憩時間に、ぜひ聴いてみてください。
🎙️ 今回のエピソードはこちら
それでは、また次回の記事で。
お相手は、松田祐典でした。
100人以上の方達が購読中
いつでも購読解除可能です